
第1回新千歳空港国際アニメーション映画祭
予想を遥かに上回るミラクルな映画祭でした。
ぼくがかねがね思い描く理想の映画祭像もかるがると超えてしまっていた、、、もちろん良い方向に。
あまりに濃厚なア二メーション漬けの日々だったので、終了後1日は、ほぼ放心状態、乗り物で移動しても、パソコンの前で作業しても、授業しててもフィードバックにオーバーラップ、時間のスキップ感が激しかった、、
とにかく凄かったのだけれど、それは、映画祭に行き慣れている人も、初めての映画祭の人も、来場した国内外の作家達も、関係者も、運営サイドもみんな一同に驚いたことでしょう。
映画祭についての印象は当事者だったりそうでなかったり、人それぞれで色んな意見があるのも確かだろうけど、でも、まぁ出される数字や報告を客観的に見てもその凄さを疑う余地はないし、来場したゲストやノミネート作家の顔ぶれ、上映プログラム、会場設営に当日の運営、どれもこれも素晴らしく充実していた。
世界初というプレッシャーを跳ね退けて、見事に誰も体験したことのない空港施設の中だけでの映画祭を実現した、新千歳空港は本当にお見事!!! 脱帽でした。
今回ぼくは、応募作の中からノミネート作品を選出する選考委員という形で関わらせていただきました。
(選考についての思いの丈は、前の投稿にて)
映画祭に関わった一員として、当日の状況とこの結果は本当に感動ものでした。
それでは、どこが良かったのかというところを以下に少しレポしてみる。
因に、ぼくもまた映像作家の1人として、そして少しは実施に関わった一員として、ここでは出品する作家の立場や映画祭の内側からの視点で見て行きたい。
まずは、何と言っても事務局の来場するノミネート作家、上映作家、ゲストに対するホスピタリティーの高さが初開催とは思えない程の完璧さだった。
国内外から来場する作家・ゲスト(その人数の多さにも驚き!)には空港内のホテルが提供され、期間中空港施設内ほぼ全店舗で使えるミールクーポンも手渡される。この時点でも滞在コストがほぼかからないことになるが、更にホテルのバーを作家やゲスト向けに深夜まで開放し(サッポロビールの見放題!)国際的なオフ会の場もしっかりと設けられていた。口コミで映画祭の売りの一つとなった温泉も皆満喫していたようだった。国外作家向けのエクスカーション(札幌観光)や作品関係者もゲスト扱いなど、細かなケアを上げるときりがない程。空港施設をフル活用して文字通りの”おもてなし”が実現されていたわけだけれど、そこにはアニメーションの作り手達へのリスペクトがとても感じられて気持ちが良かった。作家やゲストのアテンドについては、事前に事務局スタッフがアヌシーやザグレブといったアニメーション映画祭の老舗代表格をリサーチした研究成果の現れで、更にはそれらをコピーするだけじゃなくって、空港施設の特色を出してのアレンジが本当にセンス良く上手かった。
新千歳空港は近年空港内の商業施設拡大を進め、単なる観光地土産店だけにとどまらない、飲食、ショッピング、アミューズメントのサービスが充実し、映画館もそのひとつ。およそフェスティバルに必要とされる設備を兼ね備える国際空港の機能性を最大限に発揮してパッケージ化出来たこの映画祭は、今後世界的な先行事例としても注目されるんじゃないだろうか。
当日の運営についても、ほぼ全プログラムに配置された(記者会見やレクチャーにも)英語通訳には、やはり国際企画としてのプライドを感じたし、
統制のとれた意識の高いボランティアスタッフもしっかりと機能していた。ボランティアに関してはこの夏の国際芸術祭の経験者と近年自主上映活動が再燃しつつある札幌のアニメ・映像系の大学生達が中心だったことも一役買っていた。
初めての開催で、当日までどれだけの動員があるのかは誰も予想できなかったのだが、ほぼ全プログラムで満席という嬉しい異常自体に現場スタッフの対応も追いつかずの場面もあった。そこに事務局の上役(というか社長も)の方々も率先して上着を脱いでの誘導、座席調整に走り回る姿には、本当に頭が下がる思いだった。
ただ、その対応はとてもさりげなく的確だったところに現場主義のメンバー揃いの事務局能力の高さ、そして今回の大成功の要因が確実に見えた。
事務局の体制と運営には映画の内容と等しく、本当に感動した。

映画祭は、10月31日の開会式からのスタートでしたが、そこでの名誉委員長古川タクさん、国際審査委員長のクリス・ロビンソンさん2人の言葉がとても印象的で共感できるものだった。お二人とも国際コンペのノミネート作品の充実ぶりと質の高さに言及さた上(選考委員としてとても嬉しい)、
古川タクさんは、アニメーションの可能性について、「音楽と同様に世界の様々な問題を切り開く切っ掛けになる力を持った表現世界だ、、」ということを手塚治虫氏の言葉やご自身の経験から語られた。クリス・ロビンソンさんは、事前に原稿を用意せず「皆の顔を見ながらアドリブで行くよ、、」とカジュアルに始めつつ、空港映画祭の奇抜さと新しさについて語られ、最後に「”フィルムフェスティバルトラベラー”が流行る切っ掛けになるかもしれない、、」という考察も含めた。
お二人のアグレッシブな挨拶に引き続きオープニング上映されたのが、インターナショナルコンペティション1である。実はこのコンペ1が本映画祭の中で最も曲者プログラムだった…。スポンサー企業や関係者各位が一同に集い座席の殆どがスーツ姿で埋まるフォーマルな雰囲気の中での上映に、土居*さんも冷や汗ダラダラ。(*アニメーション研究・評論家の土居伸彰さんは本映画祭のアドバイザーであり、立ち上げからこの数ヶ月間、身を削って映画祭実施に尽力された最重要人物の1人)
いざ上映が始まると、作品毎に戸惑いをヒシヒシと感じる拍手の中にも、アゲンストな空気ではなく、「あれ?いつもと違う、、、」「国際アニメーション(会場内の多くの方が未体験)って、こういうことなのねぇ、、、」と1作毎にゆっくりと解釈する様な雰囲気だった。少なくともぼくの周りの客席はそうだったし、上映後も拒否反応みないたことは無かったはず。上映後、レセプション会場で見た土居さんも小野さん*も一先ずホッとしていた様子だった。
(小野朋子さん、土居さんと共に立ち上げからあらゆる方面を奔走した本映画祭事務局の鉄人ディレクター、多分仕事中は手があと4本くらい増えてるはず)
個人的には、この開会式は、日本のアートアニメーションのパイオニアと現在の国際アニメーションシーンのご意見番筆頭に導かれ、コンペ1で攻めきったことで、映画祭のポリシーを初回にはっきりと提示できたんじゃないかと思うし、その光景はかなりかっこ良かった。

期間中は、とにかく上映を見尽くそうと、常にシアターに居たわけだが、今回初めて入った新千歳空港じゃがポックルシアターの映画館設備の充実ぶりにも驚いた。シートがラグジャリーでリッチな上、スクーニングのコンディションも良質でスクリーンもとても大きい。これは上映される作家にはとてもとても嬉しいこと。更には、35mmがかけられる!近年国際映画祭にとってはレトロスペクティブのプログラムの存在も重要な位置づけで、それがオリジナルフォーマットで上映可能という付加価値はとても高い。今回は爆音「アキラ」、爆音「ファンタスティック・プラネット」に「空飛ぶゆうれい船」、「マジンガーZ対暗黒大将軍」と、とんでもない奇跡の共演が35mm上映で実現していた。往年のセル作画による画材や線の生々しさとフィルムの質感は、特にノミネートした若手のカートゥーン系アニメーション作家への影響が強かったと思う。
また爆音に関して言うと、以前、恵比寿映像祭(@東京都写真美術館)のレクチャートークにて、爆音プロデューサー樋口泰人さんのお話の中で、爆音でかける(かけたい)映画の場合、今はオリジナルフォーマットのフィルムが製作元でも配給元でも保管されていないことが少なくなく、更に配給の終わった作品に対しては敢えてDCP等のデジタル媒体へ変換して保管ということもまだまだ進んでいない状況。なので上映ライセンスだけを得て、セルBDでの上映というのも止むを得ない場合もあるという現状解説があった。それでもプロジェクターの性能が上がっているので画的な面ではそれ程の支障はないそうだが、爆音という特殊な上映スタイルの場合は、デジタル化されたものよりもフィルムのサウンドトラックの方が不思議と音の具合が良く、爆音ならではの通常上映にはない映画の音(というか空気感みたいな第六感的なところ)を再現出来るということだった。またフィルムのトラックも磁気よりも光学の方が物理的に強いということにも触れられて、興行のプロからも上映媒体の構造的なところが現段階で問題点になってきたというお話が大変興味深かったのを思い出した。
話は少しそれたが、じゃがポックルシアターでは、加えて最新の3D上映にも対応しているのだから、現状で上映出来ない作品はIMAXを除いてはほぼ無いというスペックを備えていることとなる(もし必要があれば16mmや8mmは持ち込めば良い)。
今回招待プログラムで上映されたNFBの3D特集も、研究的、作家的視点で見てとても興味深い内容で参考になった。
あと、できたら水江さんのWANDERを35mmで見たかった。
じゃがポックルシアター
http://www.new-chitose-airport.jp/ja/theater/guide/
プログラム全体を見渡すと、勿論コンペプログラムを軸に組まれているのだが、レクチャープログラムが充実していたことも初回として映画祭の役割を位置づける意味で非常に良かった。コンペとパノラマの他は、ぼくはこのレクチャープログラムを積極的に見て回った。キッズ賞子供審査会の進行役だった為、古川タクさんのレクチャーを見逃したのは残念だったが、国際審査委員のお二人岸野雄一さん、ジェレミー・クラパンさんのレクチャーはとても勉強になった。短編系の国際映画祭や実験映画系の映画祭などでは、審査委員の経歴や専門性、パーソナリティをプレゼンテーションするプログラムが組まれているのは割と一般的で、その年の審査がどういった視点で進められるのかを明確にノミネート作家、観客へアピールする目的も含められる。それはノミネート作家にとってはとてもフェアなことだし最終的に決まる受賞作品の説得力にも繋がる。その意味で、日本におけるインディペンデントなアニメーションシーンの成り立ち(名誉委員長:古川タクさん)、アカデミックなアニメーションの専門性(国際審査委員:岸野雄一さん)、国際的な評価を得たアニメーション作家の仕事(国際審査委員:ジェレミー・クラパンさん)の3本の構成は的確だった。
更に今回、出色のレクチャープログラムがノミネート作家であり特集上映も組まれたデイビット・オライリーさんの過去作上映&トーク、これが素晴らしかった。
デイビット・オライリーさんは、アニメーション分野に留まらず近年注目されるメディア系アーティストの1人、どんなアーティストなのかは映画祭HPのリンクからご確認いただければと思う。
http://airport-anifes.jp/david-oreilly/
http://airport-anifes.jp/adventure_time/
レクチャーは、大人気作「アドベンチャータイム」(全米CARTOON NETWORK.にてオンエア中)にいたる過去の作品上映から始まった。ぼくは過去にいくつかの映画祭でそれぞれ見ていたが、改めてまとめて見るとやはり面白かったし、電脳世界的インパクトが強烈でグッサリとプラグインされた。そして上映後にトークという流れ。内容としては、現代のアニメーション、映像等の表現シーンにおいて、オリジナル(今までに見たことの無いもの又は表現されたことの無いもの)の創出はほぼ不可能であり、それよりも様々な既存の物事、表現を組み合わせて行くことに創造性の価値があり、それこそがアートだ、、、ということだった。
国内外から集まったノミネート作家(主に手描きやストップモーションのカートゥーンアニメションの)も参列する中での、オリジナルを捨て去る発言とこの創作哲学の展開はとてもとても刺激的な切り口だったと言える。ぼく自身は、”再構築”を表現主題の軸にしているのでオライリーさんの発言にはつくづく納得の行くものだったが、加えて流石と思ったのは、再構築や2次的創作についての評価や批評について言及したことだった。現段階では、既存のモノ同士を組み合わせる表現に対しては必ずしも良い評価や価値付けがされているとは言えず、オリジナリティーが損なわれたもの、怠けた表現と見なされることも少なくない、しかし評価する側にしろ、表現する側にしろ、現代においてリアルに現実を表現したり、何かを言おうとした時には、オリジナリティーに固執する考えや評価しか持ち合わせないことの方がナンセンスだと言い切った。アートヒストリーの中でオリジナルの表現様式が生まれてきたことにも触れた上(トーク全体の尺的にそこを掘り下げる時間はなかったが、しっかりとその点も原稿を用意していた様子)、今の世界の捉え方、見方に映像・アニメーションを扱うアーティストとして同業者や評論家へ向けての挑戦的とも言える姿勢がとてもかっこ良かった。このトークも会場は満席(約80名程のオーディアンス)の中で、評論・研究系の方がどれほど居たかは定かではないが、地元の大学生や若手の作家は多かった様に思う。このレクチャートークが今後、映像・アニメーション分野において再構築的表現や2次的創作についての認識、評価を活性化させる切っ掛けのひとつになれば良いなと思った。トーク後に土居さんに是非このトークを何かしらの形で残せないのかなぁ、、と伺った所、これからオライリーさんも執筆・出版の予定があるとのことで、またどこかで見られる機会があることを期待したい。最後にQAでぼくは、ひとつ気になっていたことを質問した。「ミックスの表現についてとても共感できるのだが、映像の中でイメージを組み合わせる時に意識していることは何か?」それに対してオライリーさんは「オーバーラップだ。」と答えた。ぼくはその一言でもの凄く納得がいった。そして、そのキーワードはオライリーさんの作品を解釈する最も重要な概念ということも理解出来た。ぼくは今、再構築的表現において”フィードバック”と”追体験”ということを意識して作品を作っているのだけれど、オライリーさんの”オーバーラップ”という概念は、インスピレーションからエクスプレッションをもの凄くスピーディーに処理して、リアルタイムに直接的に今現在を描き出しているのだと思う。
さて、ここまで主観的だがこの映画祭の特質すべき良かった点を上げてみた。他にも、子供向け(大人でも充分に楽しめて、学生は勉強になる)のアニメーション制作ワークショップや人気商業アニメーションの展示ブースにアトラクション、コンペは鋭くてもお祭りとして楽しむ為のプログラムも充実、長編作品も楽しめる、A4フルカラーの贅沢なパンフレット、ノミネート・招待作家の物販ブース、関係者へ迅速に情報提供をしてくれるニュースレター、分かりやすく作り込まれたインフォメーションの造作、看板、ポスター、フラッグなどの会場内演出・告知の充実、殆どNGのないプログラムのスムーズな進行等々、初めての映画祭として良かったところのトピックはまだまだ尽きない。
そして、やっぱり元に戻るようだが、プログラム全体の構成がユニークで、他ではやったことのないという新千歳ならではの特色を出せたことが、今回の成功を導いた最大の要因だろう。伝統ある欧米の国際アニメーション映画祭に習い、世界基準で最高水準の先鋭的なコンペノミネート作品、応募作の中から審査対象外だが良作を集めたパノラマ、国内外で商業的に成功を収めたアニメコンテンツ、レクチャープログラム、日本アニメ文化を照らすレトロスペクティブ、爆音や変態といった他の独創的な興行との連携、地元作家の特集が絶妙にレイアウトされていた。そしてそれら全てが平等にプレゼンテーションされ来場者が自由にチョイス出来るという状況は出品作家の立場からもフェアな印象で気持ちが良かったし、それは国際空港のフラットな滑走路に様々な所へと行き来する航空機が並ぶ光景とオーバーラップして美しかった。まさにコンセプト通りの空港映画祭の姿が見えた。
今回このような映画祭に関わることができで本当に幸せだった。

ぼくが言うのも本当に烏滸がましい限りだが、映画祭にとって初回に関わったノミネート作家や上映作品、多くの専門家達との関係は、継続して行く上での大きな財産となる。自由で先鋭的な表現を生み出すアニメーション作家達への敬意と、その作品を享受出来る多様な感性を育む役割を映画祭は担っていると思う。そのことを映画祭とまた作品を見る人たちが絶えず意識できことで、見る側の質(作品やアニメーション文化の理解度)も年々向上出来たらと思う。先行する欧米のアニメーション映画祭を視野に入れつつ、将来、”新千歳的な目利き”が集う映画祭になったら、国際的なアニメーションシーンにもより強くアピール出来る様になっていくと思う。それを願っている。そして、ぼく自身もそのことを意識して今後の作家活動に繋げて行きたい。
最後に、今回立ち上げ当初から常にブレること無くド直球を投げ続けた孤高のエース土居さんと、常にその豪球をど根性で受け止め続けた小野さんの最高のバッテッリーに最大級の賞賛と労いを、こんな夢の様な映画祭を実現してくださった事務局えんれいしゃスタッフの皆さんに感謝の気持ちを送りたい。
新千歳空港国際アニメーション映画祭、本当にありがとうございました!
来年を楽しみに、粛々と自分の仕事、映画の制作と研究に戻ります。