初めてのクロアチア、ドイツに滞在していなければ、日本からは映画祭の為だけに訪れるのもなかなか難しいところ。今のこの状況に本当に感謝なのです。
クロアチアというと、首都ザグレブで開催される実験映画に特化した映画祭25FPS(この後行くことになる)とANIMAFEST ZAGREBが知られていると思いますが、クロアチア第2の都市スプリトでも、過去16回に渡り国際映画祭が開催されていている。
コンペは長編、短編両部門で欧州に限らず世界各地から作品が集まる。欧州の名立たる映画祭と比較してしまうと、小規模な映画祭だけれど、特集プログラムやレクチャー、他地域の配給組織のプレゼンテーション、地元のプロジェクトのプレゼンテーション、ワークショップなど内容も充実していて、コンペにおいて新しい表現や視点、価値観を提供する(映画鑑賞、映像表現の幅を広げる役割)と共に、映画祭としての主張、他地域との関係作り、教育という点でしっかりと地域と映画、若しくは映画を作る人を繋げる役割を担った映画祭という印象を持てた。
スタッフ編成は非常にコンパクトで、メインで動いているスタッフは10人に満たないはず。皆さんとても親切でフレンドリー。
参加作家への対応も良く、空港〜ホテル間の送迎も融通してくれる。比較的空港と会場のある中心街が近い(車で30~40分程度)ということもあるが、海外からの参加者にとってこの対応は本当にありがたい。
会場係や受け付け、記録、舞台挨拶の司会等は若い人達(といっても20〜30代)が、交替で担当していた。服装なんかもとってもラフで肩肘張らない感じが親しみやすい。
特集上映ドキュメンタリー作品の舞台挨拶の時に、フランス人プロデューサーがセットアップでキッチリ決めてきているところ(これはこれで正しい)、司会のおにいちゃんはテロンとしたポロシャツにユルユルのチノパンだったのが、なんだか地元感が出ていて微笑ましかった。因にぼくは毎日30度近くと暑かったので半袖短パンで参加。リゾート地という事もあってかみんなそんな感じ。
あとは、この映画祭もそうだったけれど実務的にも、対外的にも映画祭運営で活躍しているのはやっぱり女性だなぁって思わされた。これは現状世界共通なのかなぁ…。未見の北米、南米の映画祭はどうだろうか?
ぼくの滞在は自分の上映に合わせての2泊3日と短かったが、プログラム鑑賞の他にも、レクチャー、プレゼンへの参加、街歩きに美術館鑑賞とかなり詰め込めた。
また初訪問のスプリトの観光地としての水準の高さにも驚かされた。
以下、映画祭及びスプリトについて見られた範囲のレポ。
「ショートフィルムコンペティション」
応募条件として、ジャンルに制限はない。
ショートでノミネートした作品は、実験系の作品が多く、作家は20後半〜30代前半の世代が中心。
フィーチャーフィルムのコンペもあるせいか、ショートでは表現的に私的で独創的なものを取り上げている印象。アニメーションやドキュメンタリーもチラホラと入っている。
ぼくの滞在が短かったので、スタッフにアーカイブで他のコンペ作品は見られないのかとお願いしてみるも、
そういった閲覧システムは無かった。でも、ぼくのリクエストに対して、ゲスト担当のスタッフが上映用DVDのコピーをPCで見られないのかと責任者に問い合わせてくれるあたりにホスピタリティの高さを感じる。
「会場」




メイン会場は、世界遺産にも登録されている歴史地区の中にあり、外観からは映画館とは思えない様な石造りの狭い路地にある。地元民にはお馴染みのミニシアターといったところ。シアターの他に、プレゼン、レクチャーなどで使用出来る会議室も備わっていた。
シアター内カラフルなシートの背もたれに著名な映画監督の名前がプリントされていて可愛らしい。2階席もある。
コンペ作品と短編の特集等がこの会場で上映され、長編の特集上映がもう一つの大きなシアターで上映される。2つの映画館は徒歩で5分程度の距離感。
残念ながらメイン会場の上映環境はそれほど良いとは言えなかった。仮設のプロジェクターの品質の問題。
もう一つのシアターはスクリーンも大きく、映画館として通常営業、レイトショー的に映画祭プログラムがかかる。
観客層は、20~30代に見える若い人が多く、地元のアート系、デザイン系の人もよく見に来ている様だった。
プログラムによっては2階席も含めて満席、立ち見もあった。時折観光客らしき人達もチラホラと見かける。
スタッフに誘われて、上映の合間に地元のアーティト達、ゲスト作家のIvan Ladislav Galeta(クロアチア実験映画の重鎮)さんと一度お茶ができた。皆さんとても良い人。ぼくの作品にも興味を持ってくれて翌日の上映にも来てくれた。
「上映スケジュール」
プログラムは、毎日夕方17時頃スタートで1日4プロ、終わりが0時過ぎというのが基本。開催はオープニングを入れて8日間。日中は午後からプログラム上映までの間に、レクチャーやプレゼンテーション、ワークショップが催される。
「レクチャー」

ぼくが参加したのはクロアチア実験映画の重鎮Ivan Ladislav Galetaさんの講義。
視覚、動画の仕組みについてのお話。残像効果とフリッカーについては万国共通です。
その後のレトロスペクティブ特集上映での初期実験映画作品とも連動している。作品は徹底した構造主義。フレームバイフレームでの時間的処理、多重露光、同ポジ手法等により、映画の成立につて問題提起を促す作品。初めて作品を見たが非常に面白かった。東欧的と言ったら良いのか?硬派筋だけれど、スタンディッシュ・ローダーのウィット感とも少し似ている。
「プレゼンテーション」
エストニアのディストリビューション、Estonian Film Foundationによるプレゼン。エストニアの作家事情、配給事情について解説。参考上映では、アニメーション作家Priit Parnの「Time Out」を上映。スプリトの雰囲気をバッチリあった作品(とプレゼンターも解説していた)。
個人制作系の映像作家、アニメーション作家にとって自作の配給、管理などのマネージメントについてはどこでも同じ様な問題を抱えてるが、特にローカルであればあるほど、こういった国際映画祭の中で情報交換を出来ることはてもとても重要であると思った。

もう1つのプレゼンは、地元の終戦前後あたりからスプリトの復興を描いたの古い映像の再編集による記録映画の上映と制作プロセスの解説。ぼくにとってはこのプレゼンテーションが非常に良かった。
会場は、コンペプログラムに比べるとかなり年齢層が高くなる。地元のおじいちゃんおばあちゃんが多く集まったようだった。上映直前には満席立ち見状態。
まずは、記録映画の上映。スプリットの戦後復興の様子が明るくポジティブに表現されている。時折、観客のお年寄りから歓声があがり、地元の人達は皆楽しんで鑑賞している様子。
上映後に制作プロセスの解説を、作り込まれたメイキング映像を用いながらのプレゼン。
記録フィルムの収集、パーフォレーションが壊れたフィルムの修復、スキャニング、デジタルによるフレーム単位での傷・汚れの修復、フレームのガタつきの補正、色補正、白黒からカラーへなど。
ぼく自身初めて得る知識ではないけれど、解説の展開について改めてとても参考になる。普段フィルムマテリアルとデジタルの違いなど意識しない一般の観客からもとても関心を得ていた。

プレゼン後の質疑応答では、地域のご長老人から積極的に質問があがり、やや暫く盛り上がる。
マイクが無いのでよく聞き取れる位置まで、遠くの席から熱心が方々が徐々に舞台前の監督の元へ詰め寄せる。監督も一生懸命に質問対応する、この光景がとても良かった。ぼくは他の映画祭ではこんな場面を見た事が無い。
因にプレゼン時は英語通訳もしていたが、質疑応答が白熱してからはかなりローカルな話になっていたのか、クロアチア語オンリー。
でも、ぼくの隣に座っていったイラストレーターっぽいナイスガイ(ぼくの作品も見てくれていたようだ)が、簡単な英語でかいつまんで説明してくれたり、こういったちょっとしたコミュニケーションも気さくにこなしてくれる人が多かった。
古いフィルムのデジタル化、記録映像の再編集によるドキュメンタリー、共に今となっては技術的にも表現的にも珍しいものではないけれど、映画作品とその制作技術・プロセスを組み合わせて、映画祭という様々な世代、立場の観衆が集まる公の機会で発表することによって、その地域が持つ記憶を世代間又は、他地域の人々とも共有でき、同時に現存する記録フィルムの保存、アナログ・デジタル両面での技術的研究の重要性についても作品を連動させる事で具体的に提供でるという点において、このプレゼンは非常に素晴らしかった。
ぼくも、ちょうど渡独する直前まで、野幌の記録フィルム(8mm、16mm)のデジタル変換と資料作成の仕事をしていたが、日本はこういったアナログフィルムによる古い記録が比較的良い保存状態で残っていることが珍しくないお国柄。記録が趣味だったおじいさんの残したフィルムを地方の資料館や図書館に寄贈という話を聞くことも少なくない。
地域に残る記録を映画と言う形で再構築というのは、地方に眠っている「記憶」を資源として活かし、新しいコンテンツとして展開していくことにも繋がりそうな可能性を感じた。
このスプリトの取組みを参考に色々と考えが膨らむ。
ぼくとしては、ローカル・ファウンドフッテージのワークショップ(おじいさんのフィルムを孫がコラージュ!)みたいなことで表現の幅も広げられると理想的。今後の研究活動に向けてとても良いヒントを得た。
1人での参加だったので自分撮りはできていませんが、映画祭のオフィシャルサイトに記録写真・動画にチラリと写っていました。
サイトの作りは改善の余地ありだけれど、ドキュメントを小まめに残していく事もしっかり押えてます。
http://www.splitfilmfestival.hr/index.php?option=com_content&view=article&id=843&Itemid=290&lang=en
http://www.splitfilmfestival.hr/index.php?option=com_content&view=category&layout=blog&id=154&Itemid=289&lang=en
「スプリトについて」

映画祭に参加の際には、開催される街のことにも興味があるので、街歩きや地元のミュージアムを見に行くこともかかせない。
初めてのクロアチア、そしてヨーロッパでも有数のリゾート地スプリト、行く以前からかなり楽しみだった。





ケルンからは、ケルン・ボン空港から直行便が出ており、とても便利。もちろんヨーロッパ各地からも格安航空券で行く事が可能でアクセスはとても良い。
小さな空港は常に観光客で溢れているが、ドイツ人観光客がダントツ多かった。
空港から市街地へはシャトルバスが頻繁に出ていて、乗車も簡単。とっても小さな空港なのでまず迷う事は無い。調べたところ路線バスも行き来している。因に鉄道での空港アクセスは無い。
映画祭からの送迎もあったのだけれど、とりあえず行きはシャトルバスを利用してみた。帰りはホテルから空港までの送迎をお願いした。
バスの運転手のおじさんもしっかり英語対応。料金は確か30HRK(1クーナ=13~4円)。
空港のATMですぐにお金を下ろしたんだけど、大きな札しかない。でも、バスの運転手さんはしっかり細かいおつりも用意していて関心。
バスは3,40分でスプリットの街に到着、シャトルバスのステーションは、観光遊覧船等も停泊している港にある。しかもその港は古い街並自体が世界遺産となっているスプリットの目玉スポット(映画祭会場はこの中)とも隣接している。
観光の為のアクセス配置がもの凄くよく出来ていると観光の専門家でなくとも、着いた瞬間に気づかされてしまうほど。
もう1つの驚きは、治安の良さ。映画祭の終了時間が毎日0時を過ぎるのだけれど、その時間帯でも観光客もぶらぶらと外を歩いているし、ぼくの宿は会場から徒歩20分くらいの住宅街の中のホテルだったけど、そこまで歩いて帰る間も、全く怪しい気配は無い。夜中中、パン屋さんやケバブ屋さん等の買い食いスポットが開いていていて、学生の様な若者からおじさんまで結構たむろしてるけど、全然恐い感じがなかった。
それと便利な点としては、1ブロックの通りに最低2つはあるんじゃないかと思うくらい、街中に張り巡らされているATMが24時間フルオープン。ぼくはお金を使うタイミングは殆どなかったけれど、この異国の開放感と予想外の安心感、物価の安さにリゾート観光者の財布の紐が緩々になるのも簡単に想像がつく。上手く出来てる。
昼間、明るい所で改めて見ると、要所要所(道端)に警察官が立っていたり、パトカーで巡回していたりと治安の良さにも納得。
加えて、ネット環境の良さも観光客にとては本当に助かる機能。世界遺産の中でもフリーWiFiが結構感度よく繋がった。アカウントがSplit Cityとあったので、街の管理なのかなぁ?



食事は、海の街なのでシーフードが有名だけれど、やっぱり日本の海鮮とは方向性が違う。
それでも、久しぶりにタコ、イカや小魚のフライが食べられてたのはとっても良かった。
レストランでコッテリ煮込み系だったり、パスタ的なものと一緒になるような、観光向け郷土料理よりも、魚市場脇のビアバーみたいな居酒屋で、金皿にザっと盛られたシーフードのミックス揚げを摘む方が乙です。美味しいです。
おばちゃんの無愛想さ(でも話すと優しい)と庶民的な雰囲気がとても良く、落ち着きます。昼に入ったら、日本と同じ様な愛憎ドロドロ系の昼ドラを放送していて面白かった(笑)


ミュージアム系も時間がなかったので、映画祭会場から一番近いファインアートの美術館へ。
街のおススメとしては、歴史博物館系がいくつかある様です。行きたかった。。
コンパクトな美術館だったけれど、宗教画のコレクション、近代西洋絵画の小作のコレクション(シーレとか)、彫刻の小作品となかなか良かったです。後は静物画や風景画に地域性が出ていてそれも良かった。
こういう例え方が良いのか分からないが、スプリットは北海道だと函館と似た感じがある。世界遺産の街並みも、規模的にはちょうど五稜郭くらいの大きさ。街の大きさ的には、函館の方が大きいので、ぼくが小学生時代に暮らしていた伊達と同じくらいかな。海と山の迫り具合とかも感じが結構似ている。ぼくの中では海と歴史的な街並みというところでリンクしてしまった。
なので北海道人的イメージとしては、伊達紋別駅から函館五稜郭規模の大きさの古い街並が繋がっていてそれが世界遺産。世界遺産を囲んで都市部と住宅地域が広がっている。国際空港は室蘭くらいの所にあるみたいな感じ。
年中近隣国からの観光客で賑わっていて、夏のバケーションの終わり頃、そこで年に一度ヨーロッパを中心に世界中から作品が集まる国際映画祭を開催している。と言うのが、スプリトの映画祭。
ぼくは、映画祭への参加の際は、映像作家として映画を見ることだけを目的にする(無論これが最重要)のではなくて、その開催地域のことや文化事情もまとめて見て来ることがとても面白いと思っている。作家としては、色んな国の色んな映画祭に参加して実際に現地を訪れることで得られるものがとても大きい。
人の繋がりも然り。
Split Film Festival地域の特色も自然に感じる事ができる、面白い映画祭でした。
上映作品の善し悪しは、水物、主観なので、ぼくが見られたコンペ作品では正直グッとくるものは無かったけれど(見られなかったプログラムで見たかった作品は結構あった)、特集レトロスペクティブのIvan Ladislav Galetaさんの初期作品集は大変勉強になった。
今後も長く開催されて行くことで、更に良い映画祭へと発展して行く様に思います。
(それはこの後行くZagreb 25FPSで確信する)
他映画祭の様子、街の雰囲気などはこちらの記録写真で、
http://www.facebook.com/media/set/?set=a.354004838018128.85910.100002258443318&type=1&l=9e4276603d